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輸液

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輸液の目的

失われた水分および電解質の補充
直接静脈内へ投与するため、速やかな補充が可能である。
急激に喪失した血液の置換
大量出血などで循環血漿量が減少すると有効な循環が保てなくなる(出血性ショック)ため、血漿の不足分を一時的に置換する目的で輸液が行われる。
経口摂取の代替
口から水分や食事が摂れない場合に、水分・電解質・栄養素などの補充を目的に輸液が行われる。輸液ですべてをまかなう栄養法を完全静脈栄養法(TPN)と呼ぶ。
静脈路の確保
静脈注射のルートを維持するために輸液が行われることがある。

以上四つが上げられる。まとめると失われた物を補う事が本来の意味であると思われる。 ちなみに水頭症により脱水が起こり、輸液を行いたいが、普通の等張リンゲルを輸液すると脳圧が亢進するため大変危険である、そこで高張リンゲルを投与し、体に存在する水分を血管内に強制的に引っ張って来て水分を補正するなどが行われる。他にウシの安楽死の際に輸液のラインに水で飽和させた硫酸マグネシウムを投与する事で安楽死させる事にも輸液は用いられる。

輸液の種類

輸液の種類
基本成分 注射用蒸留水、塩化Na 塩化K 塩化Ca
塩基形成薬(アルカリ化薬) 乳酸Na 炭酸水素Na
酸形成薬 NH4Cl(酸形成作用と利尿作用、尿石溶解作用、DL-メチオニン(尿酸性化、尿石溶解作用)
浸透圧調節薬 ブドウ糖(強い還元力、5~50%で使用。5%溶液は維持用。高張溶液は糖原補給用。牛ケトン症等の場合に使用)

キシリトール(ブドウ糖の代用で還元力なし。糖尿病のときに使用

血漿増量剤 (膠質浸透圧を発生させる デキストラン(多量の失血時などに使用) ヘタスターチ(同上)

ICF,ECF,血管ごとの分類



血漿増量剤

デキストラン



ヒドロキシエチルデンプン



細胞外液補充剤

生理食塩水

血漿と等張


リンゲル液

Ca,Kを添加


乳酸リンゲル液

乳酸Naの添加


酢酸リンゲル液

酢酸Naの添加

電解質輸液剤

維持液

開始液(1号)

1/2生食


脱水補給(2号)

1号+20mM-k


維持液(3号)

健常人の水分

(1/3~1/4生食)


術後回復液(4号)

3号-KCl


細胞内液補充剤

5%ブドウ糖


輸液を必要とする病態


脱水の種類

状態

【Ex】

補正

高張性脱水 

水欠乏性(水分喪失あるいは摂取異常):軽度の脱水 水分喪失>塩分喪失

初期はECFだが経過の進行につれてICF(細胞内水分)の脱水著明に

口渇感があり、尿の濃縮が起こりPCVの上昇は軽度

日射病 

熱射病 

飲水不足 

発汗 

尿崩症 

糖尿病

5%ブドウ糖液

低張性脱水 

食塩欠乏

重篤な脱水症+重篤な低Na血症

塩分喪失>水分喪失

電解質中心の脱水 Na喪失にともなう水分の喪失

ECFが著しく減少し症状は重篤

口渇感は乏しく尿の濃縮起こらない PCV著しく上昇

アジソン 

腎尿細管異常

重度の下痢

脱水等張性脱水のときの不適切な補液

生食

リンゲル

等張性脱水 

混合性

軽度の脱水症+低Na血症

水分喪失=塩分喪失 ほとんどの脱水がこのタイプ

ECF ICFNa K

軽度の下痢・嘔吐

Ope時の出血 

熱傷など

リンゲル

乳酸加リンゲル



電解質異常

Na、P,HCO3、Ca、K、Cl 各種リンゲル液

酸塩基平衡障害

代謝性 呼吸性
アシドーシス 糖尿病性ケトアシドーシス 尿毒症性アシドーシス 乳酸アシドーシス 下痢 副腎皮質機能低下症 尿細管性アシドーシスなどでHCO3が減少して起こる→NaHCO3の投与 気道閉塞 呼吸中枢抑制(神経疾患 鎮痛麻酔薬) 心肺停止 神経筋障害(重症筋無力症、破傷風 多発性筋炎など) 梗塞性疾患(疾患横隔膜ヘルニア、気胸、血胸、膿胸 胸膜滲出など その他肺疾患など(肺炎・呼吸困難症候群、重度の肺水腫、肺線維症、慢性閉塞性肺疾患)などによってHCO3↓→気道閉塞の解除、酸素吸入、Clの確保
アルカローシス 嘔吐 利尿薬投与 副腎皮質機能亢進症&br;原発性アルドステロン症 絶食後の給餌再開などでHCO3↑&br;→Na、K、Clの補給(0.9%生食など)原疾患の除去 低酸素症→過呼吸(心左右短絡、鬱血性心不全、重度の貧血、肺炎、肺塞栓症、肺線維症、肺水腫など)&br;中枢性低炭酸血症(呼吸中枢刺激) 肝疾患 G-菌による敗血症&br;CNS疾患 熱射病 薬物等 などによってHCO3↑→低酸素血症の原因除去


ショック

循環抑制機能の正常な場合

血液減少症、低酸素血症

循環抑制機能の異常な場合

  • 血液分布異常(敗血症・外傷 エンドトキシン血症、アナフィラキシーショック、胃脾軸捻転症候群、麻酔 神経性)、心収縮機能不全(心筋症、心弁膜症、心筋虚血、不整脈)
  • 心拡張期機能不全(心タンオナーデ、心筋疾患)→血液量の是正(0.9%生食、血漿、全血輸血)
  • 酸塩基平衡異常(低酸素症と嫌気性代謝による代謝性アシドーシス)の是正NaHCO3 高K血症と血糖値の改善(5%、50%ブドウ糖液)

輸液を必要とする疾患

~疾病名 ~補正目的 ~輸液
腎疾患 ネフローゼ症候群 膠質浸透圧の是正 血漿輸液など
~ 腎不全 脱水症電解質、心不全、ショックによる電解質異常や循環低下の是正 乳酸リンゲル、生食(0.9%)、5%ブドウ糖液など(不足電解質も補充)
心疾患 心不全 有効循環血漿量増加と末梢循環不全の改善 5%グルコース液、血漿増量剤、低分子デキストラン液など
呼吸器 低酸素血症を起こす呼吸不全 低Na、K、Cl血症、脱水症、呼吸性アシドーシス、乳酸性アシドーシスの補正 KClを補充した生食
消化器 嘔吐 低Cl K血症  代謝性アルカローシス、脱水症の補正 リンゲル液 5%ブドウ糖液
= 下痢 脱水症 高Cl 低K血症「代謝性アシドーシスの補精 乳酸リンゲル 5%ブドウ糖液 7%重曹液など
~ 急性膵炎 絶食絶飲による脱水症 低K Ca血症 代謝性アシドーシスなどの補正 乳酸リンゲル 各種栄養補液剤 血漿輸液
~ 肝硬変 および肝不全 低Na K 血症 代謝性・呼吸性アルカローシスの補正と肝性脳症の防止 Na,K、Cl補充5%ブドウ糖液 アミノ酸輸液剤 血漿増量剤
代謝性 糖尿病 低Na K Pおよび高K血症 脱水症 ケトアシドーシス 代謝性および乳酸アシドーシスの補正 生食または5%ブドウ糖液にKCl リン酸水素2K 重曹などを投与
外科 術前脱水、術中の体液喪失と失血の是正 術後の栄養補給 5%ブドウ糖液、生食、乳酸リンゲル、酢酸リンゲル、低分子デキストラン&br;血漿増量剤