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腫瘍外科

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サージカルマージン

En bloc切除
腫瘍を一括して切除すること

腫瘍内切除術

  • 生検を目的に一部の組織を切除しただけの手術や、減量を目的に腫瘍を掻き出したような手術が該当
  • 腫瘍の内容が漏れ出た場合や腫瘍をいくつかに分けて摘出した場合もこの切除術に該当する
  • 当然のことながら、腫瘍の残存と創内播種は免れない。


腫瘍辺縁部切除術

  • 腫瘍をその偽被膜部あるいは反応層部でen blocに摘出した手術が該当する。
  • 偽被膜は通常、腫瘍組織あるいは強い腫瘍浸潤部の圧迫層で腫瘍に癒着し剥離が難しい内層の膜様組織と、腫瘍周囲組織が腫瘍による圧迫で膜様になった外層の組織からなる。
  • 特に固形の肉腫で偽被膜が認められることが多いが、ほとんどの場合その周囲に細胞レベルで腫瘍が浸潤している。
  • 反応層とは、腫瘍周囲の出血巣、変性した筋肉、灰白色の瘢痕状あるいは浮腫状組織などの肉眼的変色部を指す。
  • 大きな腫瘍では施行せざるをえないことが多い切除術であるが、ヒト肉腫では再発が約80%に生ずるといわれており、この場合には他療法の併用が必要である。


広範囲切除術

  • 腫瘍を、その偽被膜部・反応層の外側にある健常組織で被包するように、en bloc切除した手術が該当する。
  • 人医療ではこの健常組織の厚さが5cmに満たない場合と定義されているが、
    • 腫瘍反応層がバリアーに達する場合には、厚いバリアー(関節包など透見できない腱様光沢を有する膜様組織)で3cmの厚さの組織、
    • 薄いバリアー(筋膜など透見できるような漿膜様組織)では2cmの厚さの組織に換算する。
  • ヒト肉腫では再発が約50%に生ずるといわれている。


根治的切除術

  • 周囲の健常組織の厚さが5cm以上でen bloc切除した手術が該当する。ただし、反応層に接する健常組織を介してバリアーがあるときは、その外側で根治的とみなす。
  • この評価を受けた切除縁への術後放射線療法や追加手術の必要はない。
  • ヒト肉腫では再発率約10%といわれている。
  • 悪性腫瘍の外科療法の理想は、根治的切除術である。しかし、上述した定義はヒト悪性腫瘍の場合であり、小動物において5cmという基準のクリアは困難であり、肥満細胞腫で奨励されている3cmを暫定的目標とするのが妥当と考えられる。
  • 現実的には、根治的切除術を目指し、少なくとも広範囲切除術となるように心がける。決して辺縁部切除術で満足してはならない。
  • 「腫瘍を露出せずに正常組織とともにen bloc切除する努力を決して怠らない」ことが重要である。
  • さらに、切除した検体の切除縁に腫瘍細胞が存在しないかどうかを組織病理学的に調べる慎重さも重要である。
  • とくに疑わしい部位をマーキングしておくと便利である。切除縁に腫瘍細胞が存在する場合には、再手術か放射線療法を併用しなければならない。さらに効果的な化学療法があれば、その併用が望ましい。