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皮疹

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皮疹(skin lesions,eruption)
皮膚に現れる病変の総称。かなり漠然とした概念。

分類

  • 原発疹(Primary Lesion)
  • 続発疹(Secondary Lesion)


皮疹(skin lesions,eruption)
皮膚に現れる病変の総称

原発疹

原発疹には、色調変化を主体とする斑、隆起を伴う病変である丘疹、結節、腫瘤、一過性に隆起を示す膨疹、 内容物が予測できる発疹である水疱、膿疱、嚢腫などがある 1-6)。 1.色調変化を特徴とする原発疹:斑 斑(macule, patch)は、皮膚の限局的で境界明瞭な色調変化であり、原則的に隆起を伴うことはない。色調の違 いによって、紅斑、紫斑、色素斑、白斑に分けられる。斑の英語での名称は、小型(φ 1cm 未満)の macule と大 型(φ 1cm 以上)の patch に区別されることがある 4)。 ・紅斑(erythema) 表皮付近の真皮浅層において、毛細血管が拡張し充血することで生じる紅色の斑。血管拡張により血液量が増 加しているが、血液は血管内に存在しているため、硝子圧法により拡張血管が圧迫され紅斑領域の血液量が減少 すると、紅斑の色調は消褪する。さまざまな炎症性皮膚疾患で認められる。小紅斑が遠心性に拡大し、中心領域 は消退して、辺縁の紅斑が環状に残ったものを特に環状紅斑(annular erythema)1)といい、多形紅斑、薬疹、上 皮向性リンパ腫などの特殊な皮膚疾患で認められることがある。 ・紫斑(purpura) 紅色~紫紅色の斑。真皮内で出血しており、赤血球が血管外に存在するため、硝子圧法により退色しない。特 に発症初期では紅斑との鑑別が難しいことがあり、硝子圧法が有用である。時間が経過すると、紫斑の色調はよ り暗色に近くなる。最終的にマクロファージが全て処理すると紫斑は消失する 1)。紫斑の消失は紅斑よりも時間 のかかることが多い。紫斑は、浅層の血管が傷害される打撲、血管炎などで認められることがある。 ・色素斑(pigmented macule) 物質が沈着することで褐色、青色、黄色などの色調変化を示した斑。大部分の色素斑はメラニンの沈着による ものである。 ・白色斑(leukoderma) 主に色素脱失(メラニン色素の産生異常)によって生じた白色の斑。稀に局所性貧血によっても生じる 1)。先天 的な要因によりメラニン産生に異常があって生じる場合と、後天的な要因(炎症など)によって生じる場合とがあ る。前者は白斑(vitiligo)など、後者は境界部皮膚炎を示す特殊な疾患(例:エリテマトーデス、多形紅斑、上皮 向性リンパ腫)などで認められることがある。なお、被毛の白色化は白毛症(leukotrichia)と呼ばれる。 2.隆起を伴う原発疹:丘疹、結節、腫瘤 ・丘疹(papula) φ 1cm 未満の皮膚の隆起性変化。毛包一致性と非毛包一致性がある。痂皮を付着したものを痂皮性丘疹(crusted papule)と呼ぶことがある。さまざまな炎症性皮膚疾患で認められる。 ・結節(nodule)、腫瘤(,tumor) 結節はφ 1cm 以上の限局した隆起性変化。腫瘤はφ 3cm 以上の限局した隆起性変化で、より増殖性変化の強い ものを指す。 3.一過性の隆起を特徴とする原発疹:膨疹 85 JCVIM インタラクティブセッション ・膨疹(wheal) 浮腫によって形成された境界明瞭な病変で、わずかに扁平に隆起する。臨床的には白色~ピンク色で軽度に隆 起した斑状病変として確認され、痒みを伴うのが一般的である。一過性に出現し、24 時間以内(多くは数分から 数時間以内)に痕跡を残すことなく消失する。多くは急性のアレルギー性皮膚疾患(特に蕁麻疹)で認められる。 4.内容物が予測できる原発疹:小水疱、水疱、膿疱 ・小水疱(vesicle)、水疱(blister) 液体物質を含む隆起性変化。一般的にはφ1 cm未満のものを小水疱、φ1cm以上のものを水疱と呼ぶ。表皮内 や表皮下に生じ、動物では小水疱や水疱はすぐに破裂してしまうものが多く、確認できることは稀。先天性ある いは後天性表皮水疱症、薬疹、熱傷などの特殊な皮膚疾患で認められることが多い。 ・膿疱(pustule) 膿性物質を含む隆起性変化。毛包一致性と非毛包一致性がある。膿疱内容物の細胞診や細菌培養検査をするこ とで、細菌性膿疱か無菌性膿疱か鑑別することが重要である。細菌性膿疱は表在性膿皮症、無菌性膿疱は落葉状 天疱瘡、薬疹などで認められることがある。 ・嚢腫(cyst) 主に上皮性(稀に結合組織性)の膜様物で裏打ちされ、閉塞した腫瘤病変。角質や液体物質などを含むものが多 い。毛包嚢腫、アポクリン嚢腫などがある。 <続発疹> 続発疹には、皮膚の欠損を特徴とする発疹、隆起あるいは陥凹を伴う発疹、発疹上に特徴的な付着物を伴う発 疹、真皮や皮下組織の膿貯留などがある 1-6)。 1.皮膚の欠損を特徴とする続発疹:表皮剥離、びらん、潰瘍 ・表皮剥離(excoriation) 多くは掻破などで生じたごく小さな欠損。表皮または表皮を貫通する程度の小欠損で、瘢痕を残すことなく治 癒する。多くは掻破などの自傷により生じる。アレルギー性皮膚疾患などで認められることが多い。 ・びらん(erosion) 表皮基底層までの浅い欠損。多くは水疱や膿疱の破れた後に生じ、痂皮に覆われることもある。治癒後に瘢痕 を残すことなく、表皮は再生する。 ・潰瘍(ulcer) 真皮または皮下組織までの深い欠損。肉芽組織によって修復され、治癒後は瘢痕を残す。通常は出血、浸出液、 痂皮などを伴う。 ・瘢痕(scar) 潰瘍や創傷などの深い欠損が肉芽組織と表皮によって修復されたもの。皮表から隆起するもの、皮表と同じ高 さで修復するもの、皮表よりも陥凹するものがある。被毛部の瘢痕は毛包構造を欠くため、生涯にわたって発毛 がみられない。 ・亀裂(fissure) 表皮深層~真皮に及ぶ細く深い線状の切れ目。鼻鏡や肉球などの無毛で表皮の厚い部位に生じることが多い。 2.隆起あるいは陥凹を伴う続発疹:胼胝、萎縮 ・胼胝(callus) 表皮角質が限局性に増生し、肥厚したもの。大型犬や過体重犬の肘部などにみられることが多い。 ・萎縮(atrophy) 皮膚が菲薄化し、周囲よりもやや陥凹したもの。表面は平滑または細かい皺を生じており、乾燥傾向にある。 クッシング症候群やステロイド皮膚症などでみられる。 3.発疹上に特徴的な付着物を伴う続発疹:鱗屑、痂皮 ・鱗屑(scale) 角質が皮膚表面に異常に蓄積し、鱗状の薄片として確認できる状態のもの。正常表皮では、緩やかに角質細胞 が脱落しているため肉眼的に鱗屑を確認することはないが、病的状態の表皮では角質の形成あるいは剥脱に異常 JCVIM 86 インタラクティブセッション が生じ、鱗屑として確認できる。角化異常を伴う様々な皮膚疾患で認められる。 *落屑(exfoliation) 鱗屑が皮膚表面に固着せず、剥脱しやすい状態を落屑という。 ・痂皮(crust) 角質、浸出液、膿、血液、壊死組織などが表面に固着したもの。びらんや潰瘍の上に生じる。 4.膿の深部貯留:膿瘍 ・膿瘍(abscess) 真皮または皮下組織に膿が貯留したもの。触診により波動を触れる。感染性の膿瘍だけでなく、非感染性の膿 瘍(例:無菌性結節性脂肪織炎)を生じることもある <特殊な発疹> 先述の原発疹および続発疹以外に、特徴的な所見を示す発疹には、特別な名称がつけられている。 1.色調変化を特徴とする特殊な発疹:色素沈着、色素脱失 ・色素沈着(hyperpigmentation) 色素斑のように境界明瞭な斑状病変ではなく、よりびまん性で広範に認められる皮膚の色調変化(暗色化)に対 して用いることが多い。色素沈着はメラニンが過剰に沈着し、皮膚色が濃くなっている状態であり、一般的には 慢性炎症後の変化、あるいは内分泌異常に伴う変化として認められる。 ・色素脱失(hypopigmentation) 白色斑のように境界明瞭な斑状病変ではなく、よりびまん性で広範に認められる皮膚の色調変化(明色化)に対 して用いることが多い。色素脱失はメラニン産生異常により、皮膚色が薄くなっている状態であり、先天的ある いは後天的な要因(炎症など)によって生じる。 2.特徴的な隆起性変化を示す特殊な発疹:苔癬化、局面 ・苔癬化(lichenification) 慢性経過により皮膚が肥厚し、硬くなり、皮溝や皮丘が明瞭になった状態。一般的には慢性炎症後の変化とし てよく認められ、色素沈着を伴うことも多い。 ・局面(plaque) 少し隆起した扁平で幅広い(φ 1cm 以上、一般的にはφ 2 − 3cm 以上)の病変。局面を生じる疾患としては、猫 の好酸球性肉芽腫群、上皮向性リンパ腫、皮膚石灰沈着症などがある。 3.毛包に関連した特殊な発疹:面皰、痤瘡、毛包円柱 ・面皰(comedo) 拡張した毛孔に角質や皮脂を塞栓している病変。面皰に炎症が加わったものは痤瘡となる。面皰を生じる疾患 としては、遺伝性あるいは内分泌性の非炎症性脱毛症、毛包虫症、皮膚糸状菌症などがある。 ・痤瘡(acne) 毛孔一致性にみられる紅斑、膿疱などの炎症性変化。一般的には続発性に細菌増殖をうけた面皰が痤瘡となる。 猫の下顎の痤瘡などがある。 ・毛包円柱(follicular casts) 毛孔内において毛の周囲に角質や皮脂が蓄積したもの。毛孔から毛に沿って突出している。この毛を引き抜く と、蓄積した角質や皮脂によって複数の毛が束ねられている。毛包円柱を生じる疾患としては、脂腺炎、毛包虫 症、皮膚糸状菌症などがある。 4.その他の特殊な発疹:表皮小環、脱毛症 ・表皮小環(epidermal collarette) 剥離しやすい角質成分が環状に配列した病変。この環状に配した角質成分は、もともとは膿疱や水疱などの天 蓋を成す部分であり、丘疹、膿疱、水疱などの発疹に伴って認められることが多い。表在性膿皮症などで認めら れる。 ・脱毛症(alopecia) 毛の部分的あるいは完全な脱落。毛や毛包が傷害された場合、あるいは毛成長に異常をきたした場合に発症す 87 JCVIM インタラクティブセッション る。斑状に生じたものを脱毛斑と呼ぶことがある。