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肝リピドーシス
提供: 獣医志Wiki
- 概要
- 食欲低下による蛋白の不足により、肝臓からのTGの輸送が抑制され、肝細胞内の過剰なTGの蓄積が特徴の肝障害。一般的な肝内胆汁うっ滞の原因となる。
原因
- 特発性
- 続発性;原発性肝疾患、膵炎、IBD、感染症、腎疾患(CKD、糸球体腎炎)、甲状腺機能亢進症
症状
食欲不振、体重減少、嘔吐、流涎、肝性脳症
検査所見
- ALP、ALT、AST、Bilの上昇
- Ca、Pの低下
- 肝腫大
治療
1食餌療法
- 毎日の十分なエネルギー供給は治療を成功させる基本となる。
- アミノ酸の異化を防止、全身の脂肪分解を抑制、肝へのTG蓄積を防止。
- 十分なカロリー供給を確実にするために経腸栄養装置が必要。設置後約10日間は口から食餌を与えない。
- a/d缶を選択(低蛋白質、高BCAA、高アルギニン、高グルタミン)。
- 毎日のエネルギー必要量は、最初はその時点の体重(軽度~中等度の肥満)に基づいて算出するが、顕著な肥満であればその猫での理想体重に25%を加えて算出する。
- 脂肪;乾燥重量で25~40%の脂肪を含んだ市販されている治療用または維持用の療法食でよい。
- 蛋白質;肝性脳症の徴候がない限り、蛋白質は制限するべきではない。乾燥重量で30~45%の蛋白質を含んでいる市販の動物用療法食であれば罹患した猫にも使用できる。
- 低カリウム血症(飢餓、嘔吐、腎不全などが原因)と猫の死亡とは有意に相関しているため、要注意。
- L-カルニチンを添加することにより、家庭で生活する肥満猫が安全で急速な減量を行えることができる。250~500mg/日で投与。
- その他
- ビタミンB12、アデノシルメチオニンなどを添加する。
- 猫の食餌への嫌悪感は、肝リピドーシスの猫の食欲不振の重要な要素である。食餌を食べることと吐き気を結び付けてしまい食餌を拒絶する猫は、完全回復した後でさえ、不快感が理由で食餌を避け続ける可能性もある。よって、本疾患で食欲が低下した場合、食餌に対して嫌悪感をつのらせる前に、早急に経腸栄養装置を設置すべきである。
- 次々と食餌を変更することは、猫の食物嫌悪症を悪化させるだけであるため、禁忌。
2投薬
- 肝性脳症の治療(ラクツロース、メトロニダゾール)
- メトクロプラミド
3減量
- 1週間あたり体重の2.0%以上にしない。
禁忌
- ブドウ糖;肝臓へのTGの蓄積を促進する
- ジアゼパム;食欲増進作用はあまり期待できない。溶血を引き起こすことがある。
退院の目安
- 嘔吐がない
- 黄疸がない
- 歩行可能
- 栄養チューブによる食物給餌が問題ない
予後
- 肝臓の変化は可逆的。
- 栄養給餌で反応がよければ、1~2週間以内に体力が回復。
- 完治までは2~3週間、もしくはそれ以上かかる。
- たとえ重篤でも多くの猫で改善する可能性が高い。(85%)