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カテゴリ:糖尿病

提供: 獣医志Wiki
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オーナー向け概要

  • 糖尿病とは、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの量が不足したり、インスリンが効きにくくなる病気です。
  • インスリンは血液中のブドウ糖を細胞内に取り込んだり、体内で脂肪やたんぱく質を合成する働きをもつホルモンで、取り込めなかった糖分が尿に含まれるようになるため、糖尿病と呼ばれます。
  • インスリンの分泌が悪くなる最大の原因は太り過ぎ。また、遺伝的な要因やストレス、ウイルス感染などが原因になることもあります。
  • 軽症の場合は食餌療法で維持したり、コントロールできない症例ではインスリンの注射をします。

ER対策

  • 本疾患が原因で嘔吐しているはずが消化器疾患として誤診しないように注意する。糖尿病性ケトアシドーシス、腎不全、アジソン病などではHighK-LowNaが原因で吐いている事もある。 
  • 糖尿病クリーゼは別ページにまとめています。→ケトアシドーシス性昏睡(DKA)と高浸透圧性非ケトン性昏睡(HONK)で引き起こされる糖尿病性昏睡などについてまとめています。

糖尿病分類

IDDM(インスリン依存性糖尿病)
膵β細胞からのインスリンの分泌不全を主徴とする。血中インスリン濃度は低い。
NIDDM(インスリン非依存性糖尿病)
末梢でのインスリン抵抗性増大によるインスリンの作用不足を主徴とし、血中インスリンはしばしば高値を示す。
黄体期性糖尿病
発情後期・妊娠期におけるプロゲステロンにより、抗インスリン作用が生じる。
二次性糖尿病
末端肥大症、甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能亢進症、黄体のう腫など持続的な抗インスリンホルモンの過分泌による。
ストレス型(一過性)糖尿病
病院で猫が興奮するなど過度の精神的・肉体的ストレスにより誘起される高血糖状態。

病因・病態生理

疫学

犬IDDM(Ⅰ型。インスリン依存性)

  • 膵臓β細胞の破壊。(自己免疫性によるものと原因不明の特発性のものがある)
  • 若齢発生のもの(Ⅰ型。2~4ヵ月齢)と3歳齢以降に発症するものとがある。
  • 雌に多い(雄の2~3倍)。来院時、痩せた状態が多い。
  • 重度の高血糖やケトアシドーシスを起こしやすい。
    • e.g.)免疫介在性疾患(リンパ球プラズマ細胞性膵島炎を経て、膵島萎縮)や急性再発性膵炎(膵臓全体の萎縮と線維化。AmylとLipaの上昇)

猫NIDDM(Ⅱ型。インスリン非依存性)

  • インスリン抵抗性による絶対的・相対的インスリン分泌不全。
  • 猫はIDDMもNIDDMもある
  • 危険因子は、肥満、老齢。その他に、膵炎、腫瘍、感染症。
  • Ⅰ型とⅡ型の鑑別は困難とされているが、発症の初期でⅠ型(免疫介在性機序)である証拠はほとんど確認されていないことから、ほとんどがⅡ型であると言える。
  • 雄に多い(雌の1.5倍)。来院時、太った状態が多い。
  • 遺伝的素因と環境要因が関与。
  • ただし犬では薬物投与(プロゲステロン、ステロイド)、感染(尿路、口腔、敗血症)、クッシング、腎疾患、膵炎、妊娠・発情休止期、高脂血症、肥満などでNIDDMが起きていることがある
  • 肥満、加齢、クッシング症候群、ステロイドの長期投与、
  • 発情後一過性糖尿病(PGが関与。インスリンの抵抗性増加)

臨床症状

  • 多飲多尿
  • 多食
  • 体重減少
  • 運動不耐性
  • 筋の虚弱
  • 無気力
  • 毛並みが悪い
  • 嗜眠
  • 糖尿病性神経障害(猫での発生率は約10%)→中枢性疾患として誤診しているケースがあるので注意
  • 蹠行姿勢;歩行時に足根部を地面に着地。ジャンプ力の低下。最初に後肢に認められるが、前肢に波及することもある。

診断

  • 特徴的な臨床徴候
  • フルクトサミン(2週間)、糖化アルブミン(1週間)
  • 高血糖  空腹時;>126、随時;>200、初診時;350~450(犬)、400~600(猫)
    • 猫はストレスによって160~300mg/dlになることがある。
    • 個体によっては、一度上昇した後、終日持続することもあり、そのような個体では院内の血糖値曲線の測定は無意味である。
  • ALP、ALT、TCho
  • TG、Bil(肝脂肪症による黄疸)、BUN・Cre(腎障害)、
  • BUN・Cre・TP・Na・K・Cl(脱水)の上昇
  • 併発症(易感染性による尿路感染、前立腺炎、子宮蓄膿症)

特殊検査(グルコース負荷試験)

  • 前日夕方から絶食にする。
  • 50%ブドウ糖液で500mg/kgを30~45秒かけて静脈内に投与。
  • 投与後1、5、10、15、20、30、45、60分に採血を行う。
  • 60分以内に血糖が正常に復帰しないものを耐糖能の低下、すなわち糖尿病と診断。
  • 通常、犬の半減期は15~25分であり、猫は犬より長い。

尿検査

  • 尿糖とケトン尿
  • 尿糖は一過性高血糖と持続性高血糖の鑑別のために有効。
  • 多飲多尿があれば通常は尿比重の低下が顕著であるが、多量の糖が含まれる場合には、あまり激しい低比重はみられない(濃縮尿と評価される)。
  • βヒドロキシ酪酸(毒性小)は最初に生成され、これが代謝されるとアセトン、アセト酢酸(毒性大)になる。
    • 尿スティックで検出できる物質はアセトンやアセト酢酸であるため、インスリン療法が成功していても最初のうちはβヒドロキシ酪酸から生成されたアセトンやアセト酢酸が遅れて生成されるため、血糖値が正常値になっていてもしばらくは尿スティックでケトン体が検出される。

血液検査

画像検査

エックス線

エコー

CT・MRI

治療

インスリンについては別ページでまとめています。

治療上の注意点

  • インスリン治療の目的は、DKA、HONKの予防だけでなく、合併症発生の可能性(犬;白内障、猫;神経障害からの回復、腎不全の進行抑制、糸球体腎症、慢性膵炎)を低くする。
  • 治療目標
    • 尿糖(-)
    • 血糖値の維持範囲;犬;80~200mg/dl(←白内障がない場合。白内障があれば~250mg/dl)
    • 猫;100~300mg/dl
  • インスリン投与後数時間~次の食餌までの時間に低血糖昏睡が必ず起こる可能性があることを飼い主に知らせておく。
  • 糖尿病での合併症は高血糖による障害であるため、低血糖によるリスクを考えると、厳格な血糖コントロールは推奨されない。
  • 超持続型インスリンを用いる小型犬や猫では、食物からのエネルギー流入が終わった時間帯の10~12時間にインスリンが作用する。
  • 猫やヒトの糖尿病の発生において、β細胞の機能不全はβ細胞の破壊よりも重要な影響を与えている。β細胞の機能不全を導く機序は複雑であり、高血糖による直接的な影響の他に、異常脂質血症、レプチン、サイトカインなどの多くの要因が関与している。
  • 猫の糖尿病では、症例の30~80%(NIDDMの症例。血中インスリン濃度の測定でIDDMとNIDDMとの鑑別が可能)が適切な治療でインスリン療法から離脱できたとの報告がある。治療開始後約4~6週間で正常に戻る。
  • 猫では状態が安定し、血糖値が350mg/dl未満であれば食餌療法のみで治療を開始する。
  • 猫ではインスリン抵抗性が存在するので、抵抗性の軽減のため、各種感染症の管理、ストレスの除去、膵炎制御、肝リピ、肥満猫の減量を考慮する。
  • 猫に最も多くみられる長期経過後の合併症は、糖尿病性神経障害とDKAである。
  • NIDDMの猫の治療目的は、グルコース毒性を可逆化し、進行性のβ細胞の破壊を遅延または停止させ、末梢組織のインスリン抵抗性を改善すること。
グルコース毒性
高血糖の程度に依存する、不可逆的なインスリン分泌障害。病理組織学的所見は、グリコーゲン沈着および細胞死。

食餌療法の注意点

  • 猫では食餌のみで管理が可能なことがある、もしくは食餌療法によってインスリン治療から離脱できる・インスリンの必要性を低下させる可能性があるため、食事管理は非常に重要。もし、食餌療法のみでは反応がみられない猫は、β細胞が回復不能な機能不全状態に陥っていると考えられる。
  • 重要なのは適切な体重にすることです(体重の減少率は、1週間に全体重の1~2%にするのが望ましいです)。
  • ヒトと犬では、高線維食は食後の高血糖を軽減することが証明されている(食物線維の割合が増えると、腸管からの炭水化物の吸収が抑制される)ため、猫でも推奨される。
  • 肥満防止食、低カロリー食、血糖値の変動が少ない食餌が望ましい。ただし、確実に食べるフードにする。
  • 猫は他の動物よりも炭水化物の消化吸収が緩徐・代謝能力が高くないと言われており、標準的なキャットフードは炭水化物含有量が多くない。
  • 蛋白質を多量に含む食餌を与えると、インスリン投与量を抑えられることが明らかにされている。

インスリンの選択と回数

  • オーナーのライフスタイルと相談し、できるだけ負担をかけないようにする事が望ましいが、ベストな治療法と考えられるものを提示して相談する。
  • 基本一日二回の摂取
  • 長時間作用型のインスリングラルギン(ランタス)でも1日2回が効果的であるとの報告がある。
  • 理由
    1. 食餌の回数(1日2回)に合わせる。
    2. 24時間に1回より、12時間に1回の方が血糖値の変動を小さく保てる
    3. 獣医師側においても24時間のモニターよりは12時間で済む方が望ましい。
    4. 犬と猫で同一の製剤で対応が可能
    5. 長時間型では食後の高血糖への対応が心配。特に犬。
    6. 長時間型を利用するのは管理が難しい特殊な場合
  • 以下選択する際のフローの例

強化インスリン療法
  • 基礎分泌量対する超持続型インスリンと追加分泌に対する中間型インスリンを食餌後に2回/日投与。
  • 食前に高血糖が認められれば超持続型インスリンを増量し、食後に高血糖が認められれば中間型インスリンを増量する。
1製剤のみ
  • 小型犬  ;超持続型(ランタス)
  • 10kg前後;中間型(ノボリンN)
  • 大型犬  ;中間型と速効型(ノボリンR)(=7:3)が混合されたもの

中間型(ノボリンN)
超持続型インスリンの投与(ランタス;ノボリンNより作用は弱く、長時間持続)

猫の場合、最初の3日間は血糖値がほとんど下がらないことが多いため、インスリングラルギン(ランタス)の投与量は治療開始1週間は増やすべきではない。

関連疾患

  • 尿路感染症(膀胱炎、前立腺炎、腎炎)
  • 慢性腎不全
  • 白内障(猫では稀)
  • 膵炎
  • ブドウ膜炎
  • 網膜症
  • 皮膚炎
  • 脱毛

糖尿病の三大合併症

  • 糖尿病性網膜症(retinopathy)
  • 糖尿病性腎症(nephropathy)
  • 糖尿病性神経障害(neuropathy)

その他

インスリンの作用

① 細胞内・肝臓への糖の取り込み ② 蛋白合成 ③ 脂肪の蓄積

ミクロアンギオパシー(Microangiopathy)

糖尿病では毛細血管が障害をうけ内腔が細くなっていたり、小さい瘤にような変化をきたしたり血管の壁に特殊な物質が沈着したりしている。これらの変化を総称してミクロアンギオパシーという。

ソモギ効果

<65mg/dlの後にみられるエピネフリンやグルカゴンの分泌によって生じる24~72時間持続する高血糖。この時、インスリンが足りないと勘違いして投与量を増やすと、さらなるソモギ効果が生じる(悪循環)ため、前日と同量のインスリンを投与したのに血糖値が下がらない場合や、翌朝の極端に上昇した血糖値が認められた場合、インスリンの投与量を10~25%減量する。

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