北野成昭(キタノナルアキ) 作『獣医志Wiki』はクリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際 ライセンスで提供されています。
「カテゴリ:糖尿病」の版間の差分
提供: 獣医志Wiki
細 (→ER対策) |
細 (→ER対策) |
||
行8: | 行8: | ||
*軽症の場合は食餌療法で維持したり、コントロールできない症例ではインスリンの注射をします。 | *軽症の場合は食餌療法で維持したり、コントロールできない症例ではインスリンの注射をします。 | ||
== ER対策 == | == ER対策 == | ||
− | *本疾患が原因で嘔吐しているはずが消化器疾患として誤診しないように注意する。糖尿病性ケトアシドーシス、腎不全、アジソン病などではHighK- | + | *本疾患が原因で嘔吐しているはずが消化器疾患として誤診しないように注意する。糖尿病性ケトアシドーシス、腎不全、アジソン病などではHighK-LowNaが原因で吐いている事もある。 |
*[[糖尿病クリーゼ]]は別ページにまとめています。→ケトアシドーシス性昏睡(DKA)と高浸透圧性非ケトン性昏睡(HONK)で引き起こされる糖尿病性昏睡などについてまとめています。 | *[[糖尿病クリーゼ]]は別ページにまとめています。→ケトアシドーシス性昏睡(DKA)と高浸透圧性非ケトン性昏睡(HONK)で引き起こされる糖尿病性昏睡などについてまとめています。 | ||
2017年10月17日 (火) 08:16時点における版
目次
オーナー向け概要
- 糖尿病とは、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの量が不足したり、インスリンが効きにくくなる病気です。
- インスリンは血液中のブドウ糖を細胞内に取り込んだり、体内で脂肪やたんぱく質を合成する働きをもつホルモンで、取り込めなかった糖分が尿に含まれるようになるため、糖尿病と呼ばれます。
- インスリンの分泌が悪くなる最大の原因は太り過ぎ。また、遺伝的な要因やストレス、ウイルス感染などが原因になることもあります。
- 軽症の場合は食餌療法で維持したり、コントロールできない症例ではインスリンの注射をします。
ER対策
- 本疾患が原因で嘔吐しているはずが消化器疾患として誤診しないように注意する。糖尿病性ケトアシドーシス、腎不全、アジソン病などではHighK-LowNaが原因で吐いている事もある。
- 糖尿病クリーゼは別ページにまとめています。→ケトアシドーシス性昏睡(DKA)と高浸透圧性非ケトン性昏睡(HONK)で引き起こされる糖尿病性昏睡などについてまとめています。
糖尿病分類
- IDDM(インスリン依存性糖尿病)
- 膵β細胞からのインスリンの分泌不全を主徴とする。血中インスリン濃度は低い。
- NIDDM(インスリン非依存性糖尿病)
- 末梢でのインスリン抵抗性増大によるインスリンの作用不足を主徴とし、血中インスリンはしばしば高値を示す。
- 黄体期性糖尿病
- 発情後期・妊娠期におけるプロゲステロンにより、抗インスリン作用が生じる。
- 二次性糖尿病
- 末端肥大症、甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能亢進症、黄体のう腫など持続的な抗インスリンホルモンの過分泌による。
- ストレス型(一過性)糖尿病
- 病院で猫が興奮するなど過度の精神的・肉体的ストレスにより誘起される高血糖状態。
病因・病態生理
疫学
犬IDDM(Ⅰ型。インスリン依存性)
- 膵臓β細胞の破壊。(自己免疫性によるものと原因不明の特発性のものがある)
- 若齢発生のもの(Ⅰ型。2~4ヵ月齢)と3歳齢以降に発症するものとがある。
- 雌に多い(雄の2~3倍)。来院時、痩せた状態が多い。
- 重度の高血糖やケトアシドーシスを起こしやすい。
- e.g.)免疫介在性疾患(リンパ球プラズマ細胞性膵島炎を経て、膵島萎縮)や急性再発性膵炎(膵臓全体の萎縮と線維化。AmylとLipaの上昇)
猫NIDDM(Ⅱ型。インスリン非依存性)
- インスリン抵抗性による絶対的・相対的インスリン分泌不全。
- 猫はIDDMもNIDDMもある
- 危険因子は、肥満、老齢。その他に、膵炎、腫瘍、感染症。
- Ⅰ型とⅡ型の鑑別は困難とされているが、発症の初期でⅠ型(免疫介在性機序)である証拠はほとんど確認されていないことから、ほとんどがⅡ型であると言える。
- 雄に多い(雌の1.5倍)。来院時、太った状態が多い。
- 遺伝的素因と環境要因が関与。
- ただし犬では薬物投与(プロゲステロン、ステロイド)、感染(尿路、口腔、敗血症)、クッシング、腎疾患、膵炎、妊娠・発情休止期、高脂血症、肥満などでNIDDMが起きていることがある
- 肥満、加齢、クッシング症候群、ステロイドの長期投与、
- 発情後一過性糖尿病(PGが関与。インスリンの抵抗性増加)
臨床症状
- 多飲多尿
- 多食
- 体重減少
- 運動不耐性
- 筋の虚弱
- 無気力
- 毛並みが悪い
- 嗜眠
- 糖尿病性神経障害(猫での発生率は約10%)→中枢性疾患として誤診しているケースがあるので注意
- 蹠行姿勢;歩行時に足根部を地面に着地。ジャンプ力の低下。最初に後肢に認められるが、前肢に波及することもある。
診断
- 特徴的な臨床徴候
- フルクトサミン(2週間)、糖化アルブミン(1週間)
- 高血糖 空腹時;>126、随時;>200、初診時;350~450(犬)、400~600(猫)
- 猫はストレスによって160~300mg/dlになることがある。
- 個体によっては、一度上昇した後、終日持続することもあり、そのような個体では院内の血糖値曲線の測定は無意味である。
- ALP、ALT、TCho
- TG、Bil(肝脂肪症による黄疸)、BUN・Cre(腎障害)、
- BUN・Cre・TP・Na・K・Cl(脱水)の上昇
- 併発症(易感染性による尿路感染、前立腺炎、子宮蓄膿症)
特殊検査(グルコース負荷試験)
- 前日夕方から絶食にする。
- 50%ブドウ糖液で500mg/kgを30~45秒かけて静脈内に投与。
- 投与後1、5、10、15、20、30、45、60分に採血を行う。
- 60分以内に血糖が正常に復帰しないものを耐糖能の低下、すなわち糖尿病と診断。
- 通常、犬の半減期は15~25分であり、猫は犬より長い。
尿検査
- 尿糖とケトン尿
- 尿糖は一過性高血糖と持続性高血糖の鑑別のために有効。
- 多飲多尿があれば通常は尿比重の低下が顕著であるが、多量の糖が含まれる場合には、あまり激しい低比重はみられない(濃縮尿と評価される)。
- βヒドロキシ酪酸(毒性小)は最初に生成され、これが代謝されるとアセトン、アセト酢酸(毒性大)になる。
- 尿スティックで検出できる物質はアセトンやアセト酢酸であるため、インスリン療法が成功していても最初のうちはβヒドロキシ酪酸から生成されたアセトンやアセト酢酸が遅れて生成されるため、血糖値が正常値になっていてもしばらくは尿スティックでケトン体が検出される。
血液検査
画像検査
エックス線
エコー
CT・MRI
治療
インスリンについては別ページでまとめています。
関連疾患
- 尿路感染症(膀胱炎、前立腺炎、腎炎)
- 慢性腎不全
- 白内障(猫では稀)
- 膵炎
- ブドウ膜炎
- 網膜症
- 皮膚炎
- 脱毛
糖尿病の三大合併症
- 糖尿病性網膜症(retinopathy)
- 糖尿病性腎症(nephropathy)
- 糖尿病性神経障害(neuropathy)
その他
インスリンの作用
① 細胞内・肝臓への糖の取り込み ② 蛋白合成 ③ 脂肪の蓄積
ミクロアンギオパシー(Microangiopathy)
糖尿病では毛細血管が障害をうけ内腔が細くなっていたり、小さい瘤にような変化をきたしたり血管の壁に特殊な物質が沈着したりしている。これらの変化を総称してミクロアンギオパシーという。