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魚類のウイルス性疾患
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目次
- 1 (1) 代表的なウイルス病
- 1.1 a. サケ科魚類の伝染性造血器壊死症
- 1.2 b. サケ科魚類の伝染性膵臓壊死症
- 1.3 c. サケ科魚類のヘルペスウイルス病(OMV病)
- 1.4 d. 赤血球封入体症侯群
- 1.5 e. ウイルス性旋回病
- 1.6 f. ウイルス性赤血球壊死症
- 1.7 g. コイの上皮腫瘍(ポックス病)
- 1.8 h. コイヘルペスウイルス病
- 1.9 i. リンホシスチス病
- 1.10 j. ブリのウイルス性膵肝壊死症(腹水症)
- 1.11 k. 海産魚のラブドウイルス病
- 1.12 l. マダイイリドウイルス病
- 1.13 m. ウイルス性神経壊死症
- 1.14 n. 口白症
- 1.15 o. クルマエビのバキュロウイルス性中腸腺壊死症
- 2 (2) わが国にない重要なウイルス病
(1) 代表的なウイルス病
a. サケ科魚類の伝染性造血器壊死症
- 病原体:IHNウイルス
- 発病魚種:ニジマス、ヤマメ、アマゴなどの稚魚
- 症状:体の筋肉に出血斑、小型魚ではV宇状を呈する。腹部膨張、眼球突出するものがある。鰓や肝臓は貧血色を呈する。1月ほどで60?100%が死亡。
- 対策:治療薬はない。
- 卵の消毒(ヨード剤、有効ヨード50ppm・15分間浸漬)後、ウイルスに汚染されていない用水での飼育及び隔離飼育により感染防止。池や用具はサラシ粉の1,000?2,000倍で、手などは逆性石鹸液で消毒。
b. サケ科魚類の伝染性膵臓壊死症
- 病原体:IPNウイルス
- 発症魚種:ニジマス、アマゴ、カワマス、ブラウンマスなどの稚魚
- 症状:旋回遊泳し、肛門に糞様のものを引く。消化管に乳白色粘液、腹部膨張、1日に2?3%の死亡率で終息までに50?90%が死亡
- 対策:治療薬はない。水温9℃以下では発病が少ないIHN対策同様、池や用具はサラシ粉の1,000?2,000倍で、手などは逆性石鹸液で消毒。
c. サケ科魚類のヘルペスウイルス病(OMV病)
- 病原体:OMV(Salmonid Herpesvirus1,2)
- 発病魚種:サクラマス、ギンザケ、ニジマス,実験的にはサケ・ヒメマスが高感受性。アメリカのニジマス、スチールヘッドトラウト
- 症状:稚魚での体色黒化、眼球突出、腹部の出血・貧血、肝炎。幼魚?成魚の口部腫瘍あるいは体側の潰瘍。 対策:IHNと同様、卵の消毒とウイルスフリー環境での飼育。抗ヘルペスウイルス剤が効果を示すが、現実的には使用不可。
d. 赤血球封入体症侯群
- 病原体:EIBSウイルス
- 発病魚種:ギンザケ(実験的にはサケ、ニジマスも高感受性)
- 症状:鰓の退色、肝臓の貧血。
- 対策:卵と施設の消毒、15℃以上での飼育。
e. ウイルス性旋回病
- 病原体:WDウイルス
- 発症魚種:ギンザケ、サクラマス、ニジマス、サケ、べニザケ、アユ
- 症状:回転を伴う旋回遊泳、外観症状は特になし。
- 対策:卵と施設の消毒
f. ウイルス性赤血球壊死症
- 病原体:VENウイルス(未分離)
- 発症魚種:大西洋、太平洋沿岸の海産魚や遡河魚。タラ・ニシン・サケなど。
- 症状:軽度の貧血状態
g. コイの上皮腫瘍(ポックス病)
- 病原体:CyHV-1(Herpesvirus 欧州のポックスは分離、培養不可)
- 発症魚種:アサギ(錦鯉)、コイ
- 症状:体表、尾部、鰭の表皮に乳自色の隆起小点が現れる。
- 対策:治療法はない。病魚の駆除や隔離。
h. コイヘルペスウイルス病
- 2003年11月国内で初めて発生
- 病原体:Koi Herpesvirus(KHV)
- 発症魚種:マゴイ、ニシキゴイ
- 症状:高死亡率。表皮退色、眼球陥没。
- 対策:ワクチンなし。 PCR検査で診断。水温18?25℃で発症(低・高温ではウイルス活動低下)
i. リンホシスチス病
- 病原体:LCDウイルス
- 発症魚種:種々の海水魚と淡水魚。日本ではマダイ、ヒラメ、スズキ。
- 症状:体表、尾部、鰭にリンホシスチス細胞が出現。
- 対策:静かに放置しておけば治癒→病魚の隔離
j. ブリのウイルス性膵肝壊死症(腹水症)
- 病原体:YAV(Birnavrus)
- 発症魚種:ブリ稚魚(モジャコ)
- 症状:腹水の貯留、肝臓の出血。
k. 海産魚のラブドウイルス病
- 病原体:HIRRV
- 発症魚種:ヒラメ、クロダイ、マダイ
- 症状:体表や鰭の充出血、腹部膨満、生殖線のうっ血(急性経過)
- 対策:卵の消毒、ウイルスフリー用水での飼育、18℃以上での飼育。
l. マダイイリドウイルス病
- 病原体:RSIV(Iridovirus)
- 発症魚種:マダイ、ブリ、カンパチ、スズキ
- 症状:皮膚の黒化・出血、鰓および囲心腔の出血、脾臓の腫大。
- 対策:ワクチンあり。実質臓器スタンプ標本→異形肥大細胞
m. ウイルス性神経壊死症
- 病原体:Nodavirus
- 発症魚種:シマアジ、キジハタ、トラフグ、ヒラメ
- 症状:遊泳異常、神経組織および網膜組織の神経細胞壊死→稚魚の大量死
- 対策:採卵親魚の抗体検査と卵のPCRによる検査。
n. 口白症
- 病原体:未同定
- 発症魚種:トラフグ
- 症状:口の周囲の潰瘍、噛み合い
o. クルマエビのバキュロウイルス性中腸腺壊死症
- 病原体:BMNV
- 発症魚種:クルマエビ
- 症状:中腸腺の白濁
- 対策:感染環として垂直感染が疑われている、水平感染は実験的に証明。
- 発病のあった種苗生産施設は飼育水をも含めて消毒
(2) わが国にない重要なウイルス病
a. ニジマスのウイルス性出血性敗血症
- 病原体:VHSウイルス(Rhabdovirus)
- 発病魚種:ニジマス、カワマス、ブラウントラウト、パイクなど(ヨーロッパ、北アメリカ)
- 症状:体色黒化、眼球突出、限球・筋肉・鰓などの出血および貧血、旋回・突進などの異常遊泳。
- 対策:IPN、IHN同様治療薬はない。IHN同様、卵の消毒とウイルスフリー環境での飼育。上流からのクリーンアップ計画を実施。
b. コイの春ウイルス血症
- 病原体:SVCウイルス(Rhabdovirus)
- 発病魚種:コイ
- 症状:眼球突出、腹部膨満、肛門の発赤腫脹、鰓の退色、出血、腸炎、腹膜炎
- 対策:二次感染の予防(抗生物質の投与)
c. アメリカナマズのヘルペスウイルス病
- 病原体:CCV
- 発病魚種:アメリカナマズ、ブルーキャットフィッシュ、ホワイトキャットフィッシュ
- 症状:鰭基尾、尾柄部、腹部の出血、眼球突出、腹部膨満、前腎部・肝臓等の壊死
- 対策:水温を20℃以下に下げる。