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体温調節

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1) 体向流熱交換

環境温度が高いとき、皮膚血管小を流れる血液は表財政の静脈を通って中心部へ戻る。寒冷下では四肢の血流は動脈に随伴する深部静脈を通って中心部に戻る。
熱は暖かい動脈血から冷たい静脈血へ体向流交換によって移動し、そして体の中心部へと戻る。
同様な体向流熱交換は羊や他の偶蹄類の頚動脈網でも起こる。後者の場合、頚動脈は、鼻腔から流れ出る静脈血の洞に網を形成する。鼻からの冷えた静脈血は脳に送られる動脈血を冷やし、脳の温度を保護する。
この機構は鼻での喚起の増加が鼻血液を冷やすのを助けるので、運動中などに重要となる。結果として、運動中の筋肉から熱を運ぶ動脈血は、脳に入る前に冷やされる。


2) 体温調節反射

  • 外界の温度が低い場合は、熱産生促進と熱放散抑制。
  • 外界の温度が高い場合は、熱産生抑制と熱放散促進。
  • 筋運動により熱産生が増加した場合は、熱放散促進。


(1) 熱産生促進の機序

  • 冷感時におけるふるえは骨格筋に起こる不随意収縮。
  • 冷感時には下垂体前葉の甲状腺刺激ホルモン(TSH)や副腎髄質のカテコルアミン分泌が増加し代謝亢進がおこる。
  • 食欲の亢進。

(2) 熱産生抑制の機序

  • 高温時の食欲減退と活動の自粛。
  • TSH分泌減少。

(3) 熱放散促進の機序

  • 高温時における皮膚血管拡張と発汗。
  • イヌでは熱あえぎ(浅速呼吸):パンティング。

(4) 熱放散抑制の機序

  • 冷感時における皮膚血管収縮と立毛
  • 動物は丸く縮まって露出体表面積を少なくする。


3) 体温調節中枢

(1) 温熱中枢と寒冷中枢

  • 温熱中枢(熱放散の中枢)は前視床下野に存在。
    • 温熱刺激→発汗、血管拡張、パンティング
  • 寒冷中枢(熱産生の中枢)は後視床下野に存在。
    • 寒冷刺激→立毛、血管収縮、代謝亢進
      • 温熱中枢(熱放散) 末梢機序 コリン作動性
      • 寒冷中枢(熱産生) 末梢機序 アドレナリン作動性

(2) 温度受容

生体内外の温度条件が感受されることにより体温調節反応が引き起こされる。

  • 皮膚の温度感覚受容器:温受容器、冷受容器それぞれからのインパルス
  • 視床下部自身の温度受容器
☆ 発汗は主として脳内温度によって調節されている。 
☆ 中脳、脊髄、腹腔にも温度受容組織が存在する。体温調節中枢は一定の設定温度(セットポイン 
ト)をもっており、それからのずれがあるとそれを元に戻そうとする負のフィードバックにより体温 
は調節されている。 

体温調節1

4) 発熱:体温の異常上昇を発熱という

パイロジェン(発熱物質):細菌膜のリポポリサッカライド(内毒素)、細菌の外毒素、ウイルス、組織の分解産物、抗体、吸収蛋白、白血球性発熱因子

  • パイロジェンが冷細胞の興奮性を高め温細胞を抑制する(セットポイント上昇)
  • アドレナリンによる発熱は、交感神経末梢に作用して代謝を亢進(末梢性発熱)
  • 解熱剤の多くは冷細胞(寒冷中枢)の興奮しているときに作用して鎮静させる。


5) 発汗

・機能

  • 皮脂とともに皮膚の乾燥を防止し、皮膚表面を正常に保つ。
  • 蒸発熱の拡散を促進し体温を調節する。
  • <発汗の種類>
    • 温熱性発汗:皮膚を熱すると起こる発汗。
      • 手のひらや足の裏を除く全身に起こる。
      • エクリン腺で起こりアポクリン腺は関係しない。
    • 精神的発汗:感覚受容器からの反射や精神的努力に際して起こる発汗
      • 手のひら、足の裏、腋下において顕著(俗に言う冷汗)
    • 味覚性発汗:ワサビなどの刺激性食物の刺激によって起こる。発汗はとくに顔面で強い。
    • 発汗中枢
      • 発汗中枢は延髄にあり、上位中枢は視床下部である。
      • 視床下部におい他の自律機能と連絡して体温を調節する。
      • 運動中、睡眠中、解熱後に興奮性が高まる。
      • 汗腺の神経支配は交感神経(しかし例外的にコリン作動性神経)。
      • (だから)アトロピンによって抑制され、ピロカルピンによって促進される。

6) 動物の分類

恒温動物
外気温の変化や、運動などによる体熱発生が起こっても、一定の体温を維持するような機構を備えている動物。
変温動物
外界の温度とともに体温も変化するような動物。温度が下がると冬眠の状態となる。ex. 無脊椎動物、魚類、両生類、爬虫類
冬眠動物
哺乳類の中にも寒冷期に、高い代謝能を維持せず代謝量を下げ体温も低下させて体内物質の消費を防ぐものがある(ハムスター、熊、リス)。哺乳類の冬眠は変温動物のそれとは違い、体温調節が不能となったのではなく代謝レベルが調節された一種の生理的状態といえる。
反芻動物
第一胃内発酵熱により、比較的低温には適応でき高温には弱い。
  • 身体各部の体温
    • 核心温度 身体深部の恒温状態の温度
    • 外層温度 外界に近い末梢の温度・・・・直腸温≒核心温度
      • 口腔温=核心温度-0.5℃
      • 腋下温=核心温度-0.9℃
  • 性周期に伴う変動(メスの場合)
    • ウシでは発情の2~4日前に体温低下、発情中上昇、発情後および低下。
    • 一般に・・・妊娠末期に体温上昇。・・・分娩中に体温が→わずかに上昇(ヒト、イヌ、ヒツジ)、低下(ウマ、ウシ)

7) 熱の産生

    • 熱産生の多い臓器
  • 運動時:骨格筋(50~60%)>肝臓や第一胃(20%)>消化器>心臓>腎臓
  • 安静時:肝臓が最大
(参考) 褐色脂肪組織 
新生期の哺乳動物、冬眠動物の肩甲骨間に存在。 
多数の脂肪滴を含みミトコンドリア数も多く、血管が密に交感神経とともに分布。 
褐色を示すのは多量のヘモグロビンとチトクローム(ミトコンドリア)による。 
寒冷→交感神経興奮→ノルアドレナリン放出 

体温調節2

ウサギ:体重の5%にも及ぶ。 
ヒツジ:体幹の筋層間、および腎臓の周囲。 
ウシ:後腹壁にある白色脂肪組織が似たような熱生産を行う。 
子豚:わずかに存在する。

8) 熱の放散

  • 95%が輻射、伝導、(対流)、蒸発によって行われる。5%は尿、糞、その他。
  • 不感蒸泄:拡散によって表皮をとおり皮膚表面に達した水分の蒸発によって起こる。汗腺の関与はない。