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リンパ腫

16,079 バイト追加2014年11月17日 (月) 11:21
*[[リンパ腫:犬]]
[[category:腫瘍]]
 
 
== 好発年齢 ==
=== 犬:中齢(平均6~7歳齢) ===
若い犬でも罹患する。
組織球性リンパ腫は、しばしば若齢グループ(平均4歳齢)でみられる。
=== 猫:2~3歳齢(FeLV陽性) ===
7~12歳齢(FeLV陰性)
 
 
== 分類 (解剖学的な分類)==
*多中心型(犬)
*縦隔型(猫)
*消化管型(猫)
*皮膚型
*節外型
 
== 病理組織学的な分類 ==
 
== 臨床徴候 ==
=== 多中心型 ===
全身性のリンパ腫脹、肝臓・脾臓・骨髄への浸潤。
大多数の症例は臨床的に無症状であるが、何症例かは体重減少や食欲不振、沈うつなどの非特異的な臨床症状を示す。
約20%の犬で、多飲多尿、食欲不振、嘔吐、便秘、元気消失、筋虚弱、不整脈などの高カルシウム血症の症状がみられる。
少数の動物で出血や血栓塞栓症、眼科疾患(網膜剥離、血管蛇行)、神経症状、感染症のような単クローン性高ガンマグロブリン血症の症状がみられる。
リンパ節は著しく腫大し(正常の5~15倍)、無痛性で可動性あり。
下顎リンパ節の腫脹により、呼吸障害が生じることがある。寝苦しいなど。
猫では頚部周辺に多い。(甲状腺の腫瘤と誤診しないように注意)
主な体表リンパ節(下顎、浅頚、腋窩、鼠径、膝下リンパ節)以外のリンパ節(眼窩リンパなど)が腫大する場合、T細胞由来の可能性が高く、予後不良。
例;眼脂が多く、眼をうまく閉じられない。
⇒ 二次性皮膚型リンパ腫。T細胞由来リンパ腫。眼窩リンパ節の腫大が原因。
X線では60~75%で異常が認められるため、必ず初診時に全身のX線撮影を行い、肺野のMass、直腸の腹側への変位などが認められないか調べる。これらは抗癌剤の効果を知る指標となりえる。
 
=== 縦隔型 ===
FeLV関連の腫瘍性疾患では、縦隔型リンパ腫が最も多い。
前縦隔リンパ節の腫脹。
呼吸困難や発咳、吐出、多尿、多渇、胸水貯留、吐血、ホルネル症候群。
聴診での心音の尾側変位が認められる。
胸部X線では真っ白。
高Ca血症は犬では一般的で、しばしばT細胞免疫表現型と関連している。猫ではまれ。
細胞診ではリンパ芽球だらけ。
 
=== 消化管型 ===
胃腸管への浸潤。腸の完全閉塞、腸管破裂、二次的な腹膜炎。
腹部触診での腫瘤、肥厚した腸(ループ)の触知。
孤立性であり、腸間膜リンパ節腫大を伴いまたは伴わずに消化管内へび慢性または多病巣性に浸潤する。
食欲不振、体重減少、排便困難、嘔吐、下痢、しぶり。
通常、多中心型リンパ腫を除き、ほとんどがT細胞由来であるため、抗がん剤に反応しないことが多い。しかし、「ダックスの若年性腸管型リンパ腫」はB細胞のことがあるため、長期生存が期待できる。
胃腸管症状(嘔吐、食欲不振、下痢、体重減少、慢性出血)
診断は困難なため、消去法が有効。
エコーでは膀胱の頭側に膀胱と同じような黒く抜けた像として検出される。
結腸直腸のリンパ腫ではポリープ状のリンパ腫腫瘤が肛門から突出することも。
穿孔、閉塞が予想される時は外科的処置。なければ内科的処置でもよいが、外科的+内科的処置が最も理想。全身に播種するため、マージンは考えなくてよい。
リンパ腫の浸潤によって腸管で穿孔が生じた場合、腸管内ガスが腹腔内に漏れ、横隔膜と肝臓の間にフリーエアー(ガスによる透過性のライン)が認められることがある。この所見が得られたら、緊急オペによって腸間の穿孔部を切除しなければならない。
 
=== 非リンパ節型 ===
さまざまな器官や組織(腎臓、神経、眼、皮膚、鼻咽頭)が侵される。
==== 皮膚型 ====
起源は皮膚であるが、これらは後に腹部臓器、リンパ節、骨髄へと転移する。
分類(両者ともT細胞性)
上皮親和性型(“菌状息肉腫”)
表皮限定Tリンパ球がみられる。
症例には脱毛や色素脱毛、落屑、掻痒症、紅斑などの慢性の病歴がみられる。
プラークを形成して数ヵ月から数年経過すると、痂皮や潰瘍、そして最後には腫瘍形成となる(結節や腫瘤)。
病変はしばしば皮膚と粘膜の結合部周辺または口腔内にできる。
脱毛・瘙痒 → 紅斑・肥厚 → 潰瘍
非上皮親和性(皮膚)型
リンパ節や腹部臓器、骨髄や巻き込む多発性の皮膚病変から急性に拡大する、より侵襲的な疾患
 
==== 腎臓 ====
猫で比較的一般的であり、臨床症状は通常両側の疾患による腎不全に関連。
猫では衰弱や蒼白(貧血症)がみられ、そして大きくて不均一な腎臓が触診できる。
中枢神経系への腫瘍の進行は、腎臓のリンパ腫でよくみられる。
腎型リンパ腫ではエコー下で細胞診を行う。
 
==== 鼻咽頭 ====
鼻汁やくしゃみなどの上部気道症状、そして時には鼻の変形などを引き起こす。
猫の鼻咽頭リンパ腫は、腎リンパ腫へ進行することがある。
 
==== 眼・神経 ====
眼と神経リンパ腫は、原発または多中心型と併発して起こる。
眼のリンパ腫は犬より猫で一般的であり、臨床症状は羞明、眼瞼痙攣、流涙症、前房出血、前房蓄積、眼の腫瘤、前部ぶどう膜炎、脈絡網膜関与または網膜剥離などに関連した症状を示す。
神経のリンパ腫は、孤立性またはび慢性で中枢または末梢神経系を巻き込んでいる。臨床症状はさまざまであり、麻痺や不全麻痺、跛行、筋肉の萎縮、中枢神経症状などがある。
 
腎臓型と鼻腔内型は、踏ん張れば一時的に回復することがある
 
== 腫瘍随伴症候群 ==
高カルシウム血症(犬に多い)
単クローン性や多クローン性高ガンマグロブリン血症(犬に多い)
免疫介在性血球減少症、多発性神経障害、低血糖症
 
== 生存期間 ==
*サブクラス:
**a;6ヵ月
**b;1ヵ月
 
*病型:
**多中心型;5ヶ月
**縦隔型 ;8日
**消化器型;22日
 
*細胞型:
**B細胞;6ヵ月
**T細胞;10日
 
== 診断 ==
=== 細胞診 ===
有用性
犬では90%、猫では75~80%で診断できる。
 
=== 検体採取部位 ===
浅頚、膝下リンパ節
下顎リンパ節は避ける。例え、一番腫脹している部位が下顎リンパ節でも、それ以外から採取する。なぜなら、口内炎などが存在する動物(特にFIV陽性猫)では、リンパ節が腫脹し、リンパ球が活性化・大型化しているため、「リンパ節過形成症候群」を「リンパ腫」と誤診する可能性が高いからである。
ちなみに、猫ウイルス検査キットでFeLVは抗原、FIVは抗体を検出するため、FIV感染猫でも検査時が感染初期であればFIV(-)となり、リンパ節過形成症候群を見落とす可能性がある。
 
=== 手技 ===
FNA(針での刺入後、シリンジで陰圧にする)、FNB(針での刺入のみ)
第一にFNBを選択する。
その理由として、以下のことが挙げられる。
FNAでは血液が混入する可能性がある。
リンパ腫などの孤立円形腫瘍は、組織同士の結合がないため、FNAのように吸引しなくても刺入した針の中に検査を実施するのに十分な細胞が入る。
 
=== 染色 ===
染色前の固定:2~5分。可能であれば5分間実施。
 
=== 所見 ===
リンパ芽球の絶対的増殖(>25~30%)
 
=== 鑑別(リンパ増殖性腫瘍) ===
リンパ腫
ALL(急性リンパ芽球性白血病)  * 急性の場合、芽球様細胞が増殖する。
CLL(慢性リンパ球性白血病)
形質細胞腫(形質細胞が腫瘤として増殖)
多発性細胞腫(形質細胞が全身性に増殖)
 
 
=== クローン解析 ===
B細胞、T細胞由来の鑑別。
T細胞由来のリンパ腫の予後は不良。
リンパ腫以外のリンパ系腫瘍(リンパ急性白血病、形質細胞腫、多発性骨髄腫)の診断にも有効。
採取材料はリンパ球が関係している臓器ほど、大量に必要とされる。
例)胸腺;10%、脾臓・末梢血液;1%、非リンパ系組織;0.1%
 
犬:B細胞性;多中心型
T細胞性;腸管型、縦隔型
猫:B細胞性;消化管型(FeLV陰性)
T細胞性;縦隔型、多中心型(FeLV陽性)
実際、現在のところ明らかとなっていないことが多い。
 
== 血液学的所見 ==
貧血、白血球増加、好中球・単球・リンパ球増加、末梢血液中の異型リンパ細胞、血小板減少
 
== TMN分類(犬) ==
Ⅰ 単一のリンパ節病変
Ⅱ 2つ以上のリンパ節腫脹  *猫の場合、横隔膜を隔てたどちらか一方
Ⅲ 全身的なリンパ節病変   *猫の場合、横隔膜を挟んだ両側。
Ⅳ 肝腫・脾腫のいずれかあるいはその両方
Ⅴ 骨髄あるいは非リンパ節の病変
病期Ⅰから全身への播種は数週間~数ヵ月。
サブステージ:a;臨床徴候なし  b;臨床徴候あり
 
 
 
 
 
== 治療 ==
多剤併用化学療法(犬;12~16ヵ月、猫;6~9ヵ月生存)⇒治療しない場合は4~8週間
* B細胞型:多中心型。抗がん剤が効く。
  T細胞型:縦隔、消化管、皮膚型。抗がん剤が効きにくい。
 
飼い主に治療を進めるときのポイント
抗がん剤で完治はしないが、QOLの改善が期待できる。
悩んでいるなら、1回、抗がん剤を試しに行ってみる。
山大の症例で、1回抗がん剤を実施した犬が著しく元気が改善し、また、下顎リンパ節の腫脹による呼吸障害が消失し、かなり飼い主は喜んでいた。
生存期間は、無治療なら診断が下って4~6週間、T細胞型なら3~6ヵ月、B細胞型なら1年。
抗がん剤は最初の4ヵ月は毎週、来院が必要。また、最初の抗がん剤使用後に「腫瘍随伴症候群;要は急性腎不全」が生じる可能性がある。
クローン解析の結果が出る前に治療(UW25)を開始するが、T細胞型ならUW25から、他のプロトコールに変更することを事前に説明しておく。
 
 
 
 
== 予後不良の要因となりえるもの ==
大型犬
雄犬
ステージⅣ(脾・肝臓への転移)、Ⅴ(血液、骨髄、その他の組織に転移)
サブステージb(一般状態の悪化)
Preの長期投与
P-糖蛋白の発現(しかし、現在、これが行われた実験の正確性に疑問がもたれている。)
FeLV陽性;抗癌剤の導入時の反応はよいが、寛解期間は短い。
 
 
 
 
== 高分化型リンパ腫 ==
一般的にリンパ腫とは低分化型(High Grade Lymphoma)を指すが、まれに、高分化型リンパ腫が存在する。
 
好発犬種
シー・ズー、G.レトリバー。さらに、毛包虫症を既往歴にもつことが多いとのこと。
 
臨床症状
体表リンパ節の腫脹
一般状態は良好
 
診断
細胞診
High Gradeリンパ腫:細胞が大きく、細胞質辺縁は滑らかな球形を呈し、細胞質は濃青色。
Low Gradeリンパ腫:細胞が小さく(赤血球より少し大きいくらい)、細胞は辺縁粗造を呈しており、細胞質は透明。
 
 
治療
開始のタイミング
血液学的な異常(貧血、好中球減少、血小板減少など)
著しい臓器腫大(肝腫大、脾腫)
リンパ節の著しい腫大による臨床症の発現(呼吸困難など)
などが生じた場合に、治療を開始する。それまでは、無治療。
 
抗癌剤
効果は少ない。リンパ節中の小型リンパ球は生理的作用・分裂能を持たず、アポトーシスの異常によって長期間リンパ節に存在しているのではないかと考えられている。
第一、QOLに影響は少ないので、抗癌剤を投与する必要がない。
クロラムブシル、メルファラン
 
 
 
 
 
 
 
== 大顆粒リンパ球増殖性疾患(LGL) ==
豊富な細胞質とアズール好性の細胞質顆粒を形態学的特徴とするリンパ球集団。
* 大顆粒リンパ球(LGL);胸腺を通過しないで腸管の粘膜内で成熟する特殊なT細胞。犬ではその存在は不明なところが多いが、猫を含む他の動物ではよく調べられている。
 
左;猫の大顆粒リンパ球。この標本は腫瘍性増殖のもの。
右;猫の大顆粒リンパ球(LGL)の末梢血への出現(リンパ腫、ステージⅤ)
 
 
Richter Symdrome
定義(曖昧)
・ CLLが急成長型のリンパ腫へ変化する稀な病態
・ CLLが元にあって、リンパ腫が併発している病態
 
ヒトの情報
発生率はCLL患者の約5%
CLLクローンとリンパ腫クローンは一致する
続発したリンパ腫細胞のクローンは、CLL細胞のクローンによらない場合もある
治療反応性が悪く、生存中央値は5~8ヵ月
危険因子不明
原因不明
 
山大の症例
リンパ節の腫瘍により、来院。リンパ節の細胞診で「リンパ腫」と診断。
しかし、末梢血中に成熟リンパ球が著しく増加(白血球数;78600、リンパ球;73884)しており、骨髄穿刺にて「CLL」と診断。
クローン性解析にて、リンパ腫のリンパ球はB細胞性、CLLはT細胞性と診断された。
以上のことからリンパ腫とCLLが併発していたため、Richter Symdromeとの診断に至った。
 
 
 
リンパ腫の病理組織学的分類
Kiel分類およびWF分類は最も予後に重要であり、この分類を用いて大半の犬のリンパ腫が高いまたは中等度のグレードの悪性腫瘍や大細胞(WF)または中心芽(Kiel)のどちらかになる。
NCI Workingグループの案は、猫のリンパ腫の半分以上の症例を高いグレードとして分類している。
1/3の腫瘍は免疫芽球細胞タイプであった。
 
非ホジキンリンパ腫のRappaport分類
結節性;高分化型リンパ球、低分化型リンパ球、リンパ球と組織球の混合、組織球
び慢性;高分化型リンパ球、低分化型リンパ球、リンパ芽球、リンパ球と組織球の混合、
組織球、未分化
 
Kiel分類
低グレード;リンパ球(CLL、MF、セザリー症候群)、リンパ形質細胞性(様)、
中心細胞、中心芽細胞/中心細胞、未分類
高グレード;中心芽細胞、リンパ芽球(バーキット型、脳回状でくびれのある細胞型)、
免疫芽細胞、未分類
 
National Cancer Institute Working Formulation(WF)によるリンパ腫
低グレード;小リンパ球性、濾胞性でほぼくびれのある小細胞、
濾胞性でくびれのある小細胞と大細胞の混合型
中グレード;濾胞性でほとんど大細胞、び慢性でくびれのある小細胞、
び慢性でくびれのある小細胞と大細胞の混合型、び慢性で大細胞
高グレード;免疫芽細胞、リンパ芽球(脳回状のくびれのある/ない)、くびれのない小細胞
 
WHO分類
低分化型
リンパ芽球
リンパ球性および前リンパ球性
組織球・組織芽球・組織球性リンパ球
ビューロクラット管理者
2,554
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